ねこをねこられた話。

身元がばれるのを恐れ、snsは愚か外界にも顔を出さない生粋の臆病者の自分にとって、行先を明かすことすら気乗りしないので某温泉街とだけ記しておこう。

 

一週間前くらいのことにはなるが、かくして私はその某温泉街へと足を運んでいた。

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画像はイメージです。

 

そこいらの売店でまんじゅうを一つ買って帰るというのでは少し物寂しい。そもそも温泉街に来たからにはふらっと立ち寄った旅館の日帰り温泉を満喫するに限る。

 

外観はまるであのジブリ映画を彷彿とさせるような荘厳な木造の作りである。

 

重厚な雰囲気ではあるが、中から漏れ出すオレンジ色の光は思いのほか暖かかった。

 

誘われるようにすっと、旅館の中へ入ったがこれが正解だった。

 

一番印象的なのは露天風呂である。

 

ごつごつとした岩場に体を預けて、星を望んで温まる。

 

身に余る贅沢だ。自分の力不足の表現でこれ以上の蛇足してはいけない。

 

北国の夜風は凶暴で、外にでるやいなや突き刺すように吹き付ける。

 

せっかく温まったのに湯冷めしてはいけない。

 

名残惜しそうに旅館の玄関を見つめたあと、その場を立ち去った。

 

耳元を吹き抜ける風は虚ろな夜空から来る、宇宙からの贈り物

 

そんな下手な詩を心に描いていると

 

「にゃーん…」

 

ふと弱弱しい声が聞こえてきた。

 

見ると、道路のマンホールに前足をしまい込んだ猫がいた。

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「………」

 

「…にゃーん」

 

さてさて、今こいつは一体何を求めているのか?

 

美しい薔薇には棘がある、とは恋愛における常套句。

 

それは目の前にいるくぁわいいにゃんこにも同じこと。

 

どれ、頭にポンと手を置けば一目散に逃げ出すに違いない。

 

噛みつかれてもよい、ただ私はこの天使の姿のうちにあるどす黒い裏の感情が現れるのを

 

みたいだけなのだ。文字通りこの猫被ったやつにキュンキュンしている阿呆をたぶらかす

 

この悪魔の本性を暴きたい…!

 

「…にゃーん?」

 

「や、やわ…!」

 

なんだこのふわふわな感触はっ!いや、もふもふ?どちらでも良い。

 

今まで警戒していた理性が崩壊し、ただひたすらに猫を触る自分がそこにいた。

 

「お腹っ、お腹!お腹!」

 

「にゃーごろ♪」

 

「お鼻!お鼻!」

 

「にゃーっ!♪」

 

「お耳!お耳!」

 

「にゃ?にゃ!」

 

やわらかいような、少し骨っぽいところもある、それは魅惑の感覚である。

 

ふと気が付いて時計を見ると既に短針は9を指している。

 

「すまん、美智子!」

 

もう帰らないと!最後に頭を撫で、立ち去ろうとすると足にすり寄って必死に「帰らないで」

 

と止めてくる。

 

美智子、お前もなごりおしいのか。私もだ!

 

熱い抱擁を交わしたあと、僕は恋人と別れるようにそこを去った。

 

 

エンジンをかけ、いよいよこの温泉街から立ち去る。

 

名残惜しさを感じつつ、バックミラーで美智子の姿を確認する。

 

「ん…?」

 

その時、私の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。

 

「誰だ…、あいつ」

 

先ほどまで戯れていた美智子、その隣に一人、小汚いおっさんの姿!

 

「ぐへっへ…今日もかわいいなぁ、美智子ちゃんは…あんな若造のめでっぷりでは欲求不満だったろう」

 

僕が君を満足させるからね…

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確かこういう頭をしていた…

 

「あ…美智子っ、あぁ、美智子ぉぉ」

 

にゃーんっこ!おじさんの触り方に快感を覚えているのだろう。身をよじらせて悶えている

 

「あ…美智子、美智子…」

 

おじさんと遊ぶ美智子

 

この売女がぁぁっ!

 

こうして美智子に裏切られ、一人、夜道で、泣いた。