Xデー

現在2月10日、男は珍しく筆をとった。
星が依然きらめく早朝にスノーダンプを両手にわずらわしい重たい雪と奮闘するのは雪国生まれの宿命である。
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積りに積もった雪を掃いては捨て、掃いては捨てる。単純な作業であること極まりないのだが、何年たってもこの終わった後の疲れは捨てられる雪のようにはなかなか消えない。
年始の挨拶のはばかられるほどの労働であることはこれで読者諸君らは理解できるであろう。加えて学生たるもの期末試験などにも一層のやる気を持って取り組まなければならない。
許してほしい。少々、ブログを長らく更新しなかった理由としては情状酌量の余地はありありだろう。
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春休みが始まってなお、雪投げに追われているのにも関わらず、なぜこの枯渇した男がいきなりブログを再開し始めたのか?ひいては何がこの宍戸に筆をとらせる活力を与えたのか?
久しぶりに出た町の様子の変化、そして、カレンダーを重ねて考えるとおのずと答えが見えてくる。そう、Ⅹデーだ。
道ゆく有象無象がなにやらついになって歩いていることが多い。これは災害の前触れだろうか?心なしか私も悪寒がする。家に帰りふと卓上カレンダーを見たそのとき、私はバレンタインデーなるものがまじかに迫っていることを知った。
バレンタインデー。甘美な響きの如く、その日には女性から男性に愛情たっぷりのチョコが渡され、男女が蜜月をともにする一年に一度だけ訪れる特別な日、らしい。
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しかし、想像して胸中に広がるのはチョコのような甘ったるい空気とは真逆の地獄の鬼どもさえ苦しむ烈火の炎である。
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今まで何ど期待を持って下駄箱を開き、そして絶望したことか。
もしや、机の中にと淡い期待を込めて覗き込んだ先にはケシカスの散らばるばかりのほの暗い虚空だけであった。
どんなものにも表と裏があり、バレンタインデーもその例に漏れない。
青春真っただ中だった、あの日の自分が可哀想でならない。
チョコをもらえるのはスクールカーストの上位3パーセントのサッカーもしくは野球部に所属するイケイケ男子のみであると知らず、純粋無垢のまま与えられないチョコを待ちぼうけしていた哀れな自分よ。憎い。ひそかに抱いたささやかな望みさえ無下に踏みつぶすこの世界が憎い!
古傷が痛むのはどうやら心にも当てはまるようで、街中のしたしげなカップルの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
僕は今も哀れな自分のままであることを思い知ってしまう。
今も恋い焦がれるあの人が隣にいることはない。
画面が歪んできたので、今日はここで筆を置く。
読者よ、寂しいのは君だけじゃない。たとえ世界中がカップルで満たされようとも私はきみの味方であり続けよう。