疲れているとうんこ踏んだだけで笑えてくる。
「ブリュ」という下から這い上がる嫌な気配を感じたとき、既に事件現場から数メートル先にいた。
人の歩く速度は存外速いもので、「あっ」と思った時には、もう引き返せないほど離れてしまっている
…僕は今、何を踏んだんだ…?
人の往来に巻き込まれている今の自分にそれを確かめる術はない。
何も悟られることがないよう、神妙な面持ちのまま歩を進める。
最悪だ。日を跨いだころに全力で課題に打ち込んでいたせいだ。
暴力的な量の課題が降りかかっている。今までの進捗を考えても、体を壊すぺースを維持しない限り、終わることはない。
「ふぅ…」
ふと空を見上げる。朝日が眩しい。いったい何度目の朝だろうか?
にしても俺、うんこふんじゃったよ。
いや、一体うんこ踏むのなんていつぶりだろうか?
笑っちまうよな。大学生がうんこ踏んでショック受けてるなんて。
そのとき、あるギャク漫画を思い出し、不思議と笑みが零れた。
そのマンガにはうんこが出る場面が満載で小さい頃はそれを見て腹を抱えて爆笑していた。
懐かしい記憶だ。課題に埋もれる自分とは遠く隔たった場所に昔の自分がいる。
あの頃はただ自由だった。勉強をほっぽりだして友達と馬鹿騒ぎして、ただただ毎日が楽しくて、楽しくて、待ちわびる明日がただ愛おしかった。
もしかして、その懐かしき自分はこのうんこを通してエールを送ってくれるのではないか、ふと、そう思った。
大人になりたい、ひたすらそう願ったあの日の自分が今の自分のことを知ったらどう思うだろう。
ヘロヘロで、何か圧倒的なもの同士の狭間で擦り減っている、自分。
情けねーよ、今の自分。
こんな姿見せらんねーよ。
「…よし、とりあえず、今日もやるしかねーか…」
あの日夢見た未来に、今の自分がいる。
胸を張って、今日を生き抜こう。
うんこを踏んで、僕はそう決意したー。
『はっ?』